孤憤

大器は晩成、大音は希声

Cyndi Lauper  衝撃のファーストアルバム「She's So Unusual」

1 He's so unusual

 1980年代、松田聖子中森明菜を始めとするアイドルが大活躍、チェッカーズがデビューし、日本音楽会は、最盛期を迎えたと言えよう。しかし、そんな邦楽全盛期に負けず劣らず流れ込んで来たのが、80‘sという今では伝説となっている洋楽の大流行だ。

 当時中学生だった私は、前述したような、歌の上手な日本のアイドルたちの楽曲も、嫌いではなかった。しかし、性格が捻くれていたせいか、周囲の当然のように熱狂する姿に、素直に従うことができなかった。何か人とは違うものを求めていた。その欲求に応えてくれたのが「She's So Unusual」(彼女は普通じゃない)だった。

 当時、ファーストアルバムだと言うのにシンディー・ローパーは30歳。中学生からは、おばさんとも見える彼女が放つ、常人離れした歌唱力とレインボーに変化するボイスに、私は初めて歌手も楽器の一つであることを思い知った。そして、30という遅れたデビューに隠された何かがそう感じさせたのだろう、同じく80‘sの扉を開いたと言える、マイケル・ジャクソンやマドンナですら、表現できていない、強烈な個性を楽曲に吹き込んでいた。
 中でも、アルバム終盤に収録されている楽曲「He’s so unusual」は、革命的と言えた。蓄音器風のレトロな音調でしかも、モノラル再生で、1分半、とある少女のくだらない愚痴が語られる。

 Oo, what that boy knows He's up in his Latin and Greek
 But in his chicin' he's weak  cause,
 When I want some lovin' And I gotta have some lovin'
 He says 「please! stop it please」
 he's so unusual....

 「彼ったら何でも知っているのよ。ラテン語ギリシャ語もお手のもの。
 だけどそんな彼にも苦手なものがあるのよ。
 彼といいことがしたくなってちょっぴり愛し合おうとすると
 彼は『お願いだからやめてくれ』って言うの。
 彼ってとっても変っているの…」

 銃声が2発鳴って、アルバムラスト曲の「Yeah Yeah」のイントロがリズミカルに流れる。

 シャッフル再生しか知らない現代っ子にはわからない痺れる演出だ。

2 We‘re so unusual

 本来、本稿は本Chapter1の最終稿として投稿し、そのChapterタイトル「unusual」について、種明かしをするためのものであった。
 しかしながら今回の孤憤篇においては、第1稿から重い社会問題を取り扱い過ぎて、いささか疲れが出てきた。
 そもそも私は、現在の政治や社会に不満ばかりを抱えている革命戦士でもなければ、つまらない不平屋でもない。
 私は保育園から大学まで公立で、今は税金から給料をいただいていてこの国には、恩義こそあれ恨みなど毛頭無い。コロナの時は私も罹患したが、迅速かつ手厚い対応に感動した。
 先日のサミットのゼレンスキー大統領のサプライズ出席はマジで感激した。多くのマスコミが言うように、グローバルサウスを味方につける抜群のタイミングだった。日本の外交力も捨てたもんじゃ無いと感心している。
 しかし、だからこそであろう、本来の主権者たる諸国民が一部の五蠹(よからぬことを企む者)によって、その勤勉がもたらす成果物を巧妙に搾取されていく様を見過ごせないでいるわけだ。

 Chapter1のタイトル「unusual」は、普通じゃないという意味で、意訳すれば「非常識」とも言い換えられる。しかしてその心は、「あなたの常識は本当に正しい?」である。

 前述の歌詞の中で、おしゃまな女の子の常識は、初な大学生にとっては非常識であった。

 この国は確かに安定している。治安も良い。おばあさんが殺された途端に、ルフィー1派を掃討したところなんて痛快だった。しかし、どこか貧困を感じることはないか?なぜか豊かではない。働いても働いても楽にならない。
 それは、絶対当てる気のないミサイルに怯えさせて、軍事費を増大させたり、産めよ育てよの掛け声の割には、子育てパートタイマーが最も集中する収入ベルト、100万円から150万円に、群がるように保険料・年金・地方税を課したり、このままでは年金制度は破綻すると将来の不安を煽っては、せっせと貯蓄させ、その貯蓄は国の借金に化けている。
 消費税のインボイスの問題は、結局、免税事業者の納税8割引などと言うウルトラCを飛ばして、骨抜きにしやがった。元来これまで、払いもしていない免税事業者への支払いについて、課税仕入として控除し、実質益を得ていたのは、中小の下請業者じゃなく、元請けの大企業である。インボイスが導入され、その益税が失われる時、これを贖うのは大企業の務めなのに。

 とまあ、こんな具合に、私たちは、不勉強なため、一部の人間が不都合な情報を操作して、不当な搾取をする、unusualな世界に生きている。

3 I’m so much unusual

 Chapter1では、もう2、3点、世のunusualにスポットを当てたいと考えている。現在執筆中の「少子高齢化問題にアバダケダブラ(アブラカタブラ)」では、年金制度に回天的な(天地がひっくり返るような)解決案を示そうとしている。しかし、ビジョンは捉えているのだが、そこへ繋げるストラテジー(道筋)が、なかなかまとまらず、もう2ヶ月くらい座礁している。

 もともと、この孤憤編を執筆するにあたっては、かなり葛藤があった。
 以前も話したが、私は多弁症の治療のため、不眠症に悩む方々が欲しがる市販の導眠剤の、数倍の威力のある睡眠薬を1日6錠処方されている。常人では起きていられる事が不思議なくらいなのに、それでも私の頭の中は、無駄に回転を続けている。
 1年足らずしか従事していない業務なのに、効率化案を4つも5つも考えている。まさに病気だ。それが、口からはみ出て来ないのは、気狂い並みの薬物療法のお掛けで、詳細な立案ができないためだ。
 私のような、中途半端な士官候補生崩れは、どこの部署も願い下げで、どうしても人手不足の部署を転々とすることになる。当然どこへ行っても新参者で、「何かをやらかして道から外された奴」という看板付きだ。だから、まさか、業務の効率化案など唱えた日にゃあ、総スカン間違い無しであり、お薬さま様様と言う訳なのである。

 その代わり、文章力は完全に失われた。
 前回投稿の「借金王国万歳」については、仕組みそのものは単純な話なのに、興味を惹くことや、エビデンスを示すという約束事を意識し過ぎて、5400文字にもなってしまった。

 どういうわけか、私のブログのアクセス数ダントツの1位は、前作の序盤に書いた「マグナ・カルタ」だ。まあ私が憲法学に目覚めるきっかけをくれたエピソードを語っているもので、興味を持ってもらえることはとても嬉しいことである。私自身、先日読み返してみたが、我ながら、上手くできた文章だと感心した。しかし、その文字数に愕然とした。

 2800文字!

 執筆中の「少子高齢化問題にアバダケダブラ(アブラカタブラ)」は、主眼の年金問題解決策に入ろうと言うところで、4400文字になっている。まだまだ文章の練り直しが必要だ。やれやれ。

 主治医は、私の才能を高く評価していて、やたらと退官して独立することを勧めてくるが、彼以外にその選択肢を薦める人はいない。私はあまりにもunusual過ぎて、きっと何をやっても上手くいかないと判断されている。まずは社会に適合するようになってからの問題だと言う訳だ。

4 So unusual may change the world

 しかし、焦ることはない。韓非子は言っている。
 (韓非子_解老篇「大器は晩成、大音は希声」)
 「その昔、楚(そ)の荘王は、即位してから三年もの間、法令を発することもせず、全く政務を執ろうともせず、日々、遊蕩をつくすばかりだった。将来を不安視した大臣が、ある謎かけをした。「南方の丘に鳥がとまっています。その鳥は三年もの間、羽ばたきもせず、飛ぶことも鳴くこともしないで、ただ黙って静かにしています。これはいったいどのような鳥でしょうか?」と。
 荘王は答えて言った。「三年も羽ばたきをしないのは、そうすることで翼をより大きく伸ばそうとしているのだ。飛ぶことも鳴くこともしないのは、そうすることで人々の生き方を観察しようとしているのだ。今は飛ばないが、飛ぶときが来ればきっと天まで昇るだろうし、今は鳴かなくても、鳴くときが来ればきっと人々を驚かすだろう。」」果たして数年後、荘王は、天下の覇者となった。かの有名な、「大器晩成」の逸話である。

 前作の私は、発想力と想像力、奇抜な展開、そして巧みな文章力を駆使して、自分の才能の限界にチャレンジし、これを残した。今は、社会適合性を重視し、リミッターの範囲で発想し、ある一人の常識人の助言を取り入れながら、慎重に発言を選んで執筆している。
 その代わり、前作より、より過激な社会批判を展開している。
 いずれ、リミッターを外せるようになったとき、この声を抑えて、良識の範囲で翼を養った経験が、ただの普通じゃないunusualを演出してくれるかもしれない。
 孔子は、自分と理想を共有できる君子を求めて転職を繰り返し、56歳を過ぎて、これを諦め、自分が師匠になることにしたところ、3000人の弟子を持つに至ったという。私も、まだ50代、まだまだ成長し、名著(大器)を記す時間は残されている。