孤憤

God save the loan kingdom 借金王国万歳!!

1 やっぱり異常⁈日本の借金

 2023年5月12日 財務省の発表によると「国の借金」と言われるものの、累積額が1,270兆円を超え、ついに人口1億2200万人で割ると、国民一人当たり一千万円を超えることがわかった。一人当たりという事であるから、4人家族の人は、4千万円抱えている事になる。

 その異常さを国際的に見てみると、金額ではアメリカについで世界第二位であるが、対GDPと言われる借金の重みを測る測定法だとダントツの世界第一位である。(ちなみにアメリカは、対GDPで測ると12位である)

 すなわち、この地球上で稼ぎに似合わない借金を一番しているのは誰だと言うと私たちだ。ちなみに、経済破綻で国が倒れそうになったギリシャは今でも残念ながら、ワースト2位。それでも対GDP比 172%まで下げてきている。日本はなんと対GDP比 261.3%。

 これでよく国が倒れないものだと危惧している人も居るだろう。

 しかしこの危惧に対して多くのマスコミや政治家がこんなことを言っている。

 「日本の借金1200兆円はほとんど日本人から借りているものなので大丈夫。EUや外国人からユーロで借りていたギリシャとは違います。」

 なるほど外国人なら他国が滅びようが関係ないからいつでも借金を引き上げてしまうが、日本人が借りているのなら、日本が滅んでは困るから、強引に借金を引き上げる事はないだろう・・・全くの嘘です。

 金を貸す人、すなわち投資家と言うものは儲かる所には金を貸す。そして潰れそうなところにも金を貸す。それは潰れたときに儲かる仕組み(いわゆる「逆ザヤ」)が世の中にはあるからだ。

 そして、世界には機関投資家という怖い人たちがいて、まやかしの資産でフラフラしている企業を見ると、その弱みに付け込み、破綻させ、逆ザヤをガッポリ儲ける人たちがいる。

 1997年7月、微笑みの国タイは、この機関投資家の餌食に遭い、その通貨バーツは紙よりも価値の無いものになりかけた事がある。東南アジアASEAN諸国で必死に支え合い、なんとか乗り切ったが、機関投資家という連中が、武器商人より恐ろしいことを思い知らされた。

 しかし、その機関投資家が、なぜか、この危なっかしい借金王国、日本を狙おうとしない。それはなぜかと言うと、この借金を貸している人が絶対に借金を引き上げようとはしないことをわかっているからだ。つまり多少揺さぶりをかけても、日本の借金は日本を揺るがさないのである。

 

2 日本に金を貸している人

 いったい日本に多額の金を貸してくれて、しかも、絶対に引き上げない人たちとはどう言う人たちなのだろう?

日本の借金とは、基本的に日本銀行が発行する国債であり、これを購入してくれる(引き受けてくれる)人が、日本に金を貸してくれている人達だ。だから、国債保有している人たちを探せば良い。

 

 その考察に入る前に、日本の借金1,200兆円はまやかしだと唱える人の主張の中に、「日本は、国有財産をたくさん持っているから、いくら借金しても、それで返す事ができる。」と言うのがある。これについて検証してみよう。

 確かに、日本の国有財産は、600兆とも700兆とも言われているが、そのほとんどは、土地や建物といった固定資産だ。それらの大半は、現実問題として不売品と言って良い。例えば、「法隆寺」はとても高価な国有財産だが、果たして売れるだろうか?と言う話。少なくとも林野庁管轄の膨大な資産は皆同じだ。他の省庁の資産は、庁舎や官舎など公務に資する必需品だし、流動性があって、価値が期待できるのは、民営化した元国営事業の株券くらいだが、こいつは、借りている借金より利息を生んでいる。

 しかし、実はこの空虚に近い国有財産説は、あながち嘘ではない。

 日銀が自分で発行している債権を自分で保有しているという事を知っている人は多いだろうが、その額が500兆円も有ることはあまり知られていない。

 自分で借りた金を、自分が貸主として引き受けているのだ。おかしな話である。 ただ、その根拠として、上記のような、売れるかどうかわからない資産が、担保になっているとのことである。どうにも危ない話をしている奴のようにしか見えないが、とりあえず1,200兆円のうち、500兆円は、日本銀行が引き受けているわけだ。この500は、貸し剥しに会うことはない。

 

 次に残りの700兆円の引受人を考察していこう。

 私も含めて、周囲で株を始めたと言う人は見かけるが、国債を持っていると言う人は、喫煙コーナーで葉巻を吸っている人間を見つけるくらい難しそうだ。どうせ、どこかの富裕層か大企業がガッツリ囲っているんだろう。と思いがちだ。

 

 10年ほど前、トマ・ピケティはその著書「21世紀の資本」の中で、世界の上位10%の富裕層が世界資産の7割から8割を保有していると語っている。おそらくこの富の集中はその時期よりもっと進んでいるだろう。

 しかし、2017年の資料だが、日本の金融資産総額1,500兆円の内、上位4%の富裕層が300兆円しか占めていないことがわかっている。そして、逆に総資産5000万円未満のマス及びアッパーマス層と呼ばれるいわゆる庶民階層の保有資産が3分の2の900兆円を占めていることもわかった。まあ、金融資産だけをみた話だが、国債を誰が引き受けているかを考えるだけなら、それが富裕層に集中している様子はない。生活保護に頼る人も増えたが、まだまだ中間層は頑張っているわけだ。

 

 では、大企業が買い占めているのか?

 2022年、国内企業保有資産時価総額ランキング(銀行預金を除く)によると、一位はTOYOTAなのだが、2022年の有価証券報告書を見る限りでは、公社債保有高は1,125億円。桁が違い過ぎる。

 いや待て待て、なんで銀行預金を外す?「だって、銀行預金は人からの預かり金だから、その企業固有の資産とは言えない。だから時価総額ランキングには反映されない。」しかし、銀行の預金というのは、人に貸すために集められているもの。そして、国債は、彼らにとって、列記とした貸付金ではないか?

 と言うことで、メガバンク4社の有価証券報告書を見てみた。

 出ました!三菱UFJ 33兆円、みずほ25.6兆円、りそな25.6兆円、三井住友15.7兆円。驚いたのが、ゆうちょ49兆円と、金融機関じゃない日本郵政34兆円だ。

 

 そうです。日本の借金を支えているのは、日本の金融機関です。というか私たちの貯金です。日本郵政がしこたま溜め込んでいる国債も、かつて私たちの両親の世代の人たちが、「一番安心な銀行」として愛親しんだ郵便貯金が元手です。

 

 かつて小泉純一郎と言う総理大臣は、日本政府が郵便貯金国債を引き受けさせて、無駄遣いの限りを尽くすので、この関係を断ち切ろうと郵政省を民営化した。ところがこの偉業に気づいている国民はほとんどいない。

 「日本の借金は日本人から借りているから大丈夫。」と言われ、どっかの富裕層か大企業が貸しているのかと思っていたら、なんのことはない、貸しているのは自分たちなのだということをまるで気づいていないのだから、この借金は引き上げられることはないわけだ。たとえ、今この話を聞いて気づいたとしても、この借金を引き上げたら、自分の貯金がなくなるのだ。そりゃ誰も返せとは言うまい。

 

 とまあ、回りくどい話をしたが、これは後半の話をわかりやすくするため。手っ取り早く知りたい人は、ネットで「国債保有者」で検索すれば、トップヒットする。

国債等の保有者別内訳. (令和4年9月末(速報)

 

3 God save the loan kingdom 借金王国万歳!!

 この状況がへんてこりんなのは、まず一つ、「なんで俺たちは利息を払っているんだ?」という話。国家財政逼迫の折、国債の償還に係るいわゆる国債費は令和4年度予算で24兆円。そのうち利息に相当するものは8兆円。なんじゃそりゃ。わしの金やないかい!

 今一つ不思議なのは、どうして富裕層や大企業は怒らないのだろう?

 私の預金など勝手に使われて、なぜか利息を払わされても、大したことは無い。自分の預金に利息をつけられて、預金額も払う税金も多い富裕層や大企業の方が、痛手では無いのか?そして、知的レベルの高い彼らが、このへんてこりんな状況に気づかないはずもない。

 しかし、おそらく、彼らは国債よりもより利回りの良い金融商品を購入して運用しているのだ(もし国債の方がお得なら、TOYOTAの余剰資産はもっと公社債に注ぎ込まれているだろう)。だから、金融機関は、この資金については、もっと利回りの良い運用を迫られる。その分、利回りの悪い庶民の預金は国債で堅実に利ザヤを稼ぐ。そうすれば、彼らの持つややリスキーな資産で損失が出ても、それで補える。

 なるほど、富が集中しておらず、金融資産総額1,500兆円のうち、900兆円をマス及びアッパーマス層が保有している日本だからできる狡猾で巧妙な仕組みだ。

 国債は、今は1%以下の利回りしかないが、かつては、8%の時期が20年以上続いたときもある。経済成長や、好不況に合わせて変動する公定歩合や市場金利に確実に連動する。親方は日の丸で、戦争でも起きない限り倒れない。そして一応日本は、憲法上戦争はできない。なるほど、理想的な貸付先だ。

 さらに付け加えると、国は、突然借金を棒引きにしたり、利息の支払いを延期したりするような裏切り行為はできない。なぜなら、それで、銀行が破綻したら、預金保険制度により、一人1000万円まで、損失を補填しないといけないからだ。 

 誰が考えたのか知らないがよくできた仕組みだ。

 

 しかし、この仕組みでは、随分、私を含む、マス及びアッパーマス層は損な役回りをしている。結局、私たちの預金は、私たちに対する貸付金に振り替えられ、私たちはその利息を払わされている。年間10万円の税金を払う人なら、そのうち8千円がその利息だ。その利息は、銀行では、富裕層が持つ高利回り商品がそれを実現できなかった時の損失補填に回される。結局、富裕層の利益を盤石にするために預金をしているようなものだ。今更悔しいからと言って、10万円ほど国債を買っても、今の利率では500円ももらえない。

 コロナにしても、防衛費にしても、私たちはそれが本当に必要かどうかもあまり考えず、催眠術にでもかかったように政府に支出を要求する。政府は苦渋の選択をしたかのように、また国債を発行するが、その裏で「これでまた富裕層の利益を守れる。票がもらえる。」とほくそ笑んでいる。

 

 後世に借金を残してはいけないと、年金を減額し、社会保険料を釣り上げ、増税も行うが、国債が増発されなかった年は無い。この振れば振るほど大きく強くなる打ち出の小槌を手放すはずがないのだ。

 まさに、“God save the loan kingdom 借金王国万歳!!”だ。

 

4 利の在る所は民これに帰し(外儲説篇・説林篇ほか)

 韓非子は、聖者の治道には、1に「利」、2に「名」、3に「威」が必要と言われるが、中でも「利」が最も重要だと説く。そして、その「利」は「民」に帰すことで国が安定するという。例えば、民は利益の前では、蛇のような鰻でも手掴みし、女性ですら毛虫のような蚕を丁寧に扱う。弱者が利益の前で勇猛になることこそ、国力の源になるからだ。

 逆に「臣」と呼ばれる、行政機関及び、公共機関が利益を得るようになると、国が傾くと、強く警戒している。もともと力のある者が、庶民の財や利益を専横していて、楽に利益を得るようになったら、国力は下がる一方だからだ。

 

 国債を減らすことは困難だろう。だから、まずは、国債保有する利益を民へ移管し、国債総額が多いと一部の人が得するという不思議な仕組みを変える必要がある。

 

 例えば、新発の国債を引き受けた者にふるさと納税並の大胆な、つまりほぼ同額の税額控除を認める。但し、富裕層優遇にならないよう、上限額を100万円に設定する。

 もちろん所得税の収入は減ることになるが、上限設定を設けているため、おそらくその金額は2、3兆円に収まるだろう。

 担保は無い。銀行と違って、裏切られて棒引きになるかもしれない。しかし、税金の一部と引き換えに得たものなのだから、しばらくでも金利がもらえるだけマシだろう。とにかく、狙いは、マス・アッパーマス層が直接国債保有することだ。

 重要なことは、本来の利益を民に帰することである。さすれば、民は、国力を上げ、利率を上げることにも勇猛になるであろう。

レンブラント・ファン・レイン「放蕩息子の帰還」

 レンブラントは、バロック(barroco(ゆがんだ真珠)のこと。16世紀末から18世紀に欧州で流行した芸術様式)の巨匠の一人で、精密な表情描写から、「感情」と言うむしろ抽象的なものを画上に表現する天才として、その技術は今なお勝るものはいないと私は確信している。

 画題は、新約聖書の逸話で、父親に財産の生前贈与を迫って、放蕩に明け暮れた挙句、極貧に陥った息子が、図々しくも、帰宅して、「召使としてでもいいから雇ってくれ。」と泣きつくが、父親は、怒るどころか、息子の帰還を大いに喜び、祝宴をあげると言うもの。

 どんなに悪いことをしても、悔い改めれば必ず赦しが得られると言うキリスト教らしい逸話。背中越しにも感じる放蕩息子の悔恨の思いと、帰ってきたことだけに安堵する父親の姿が、レンブラント晩年の傑作と呼ばれる面目躍如といえよう。

 まあ、どんなにどうしようもないものでも、なくなるよりはマシだとも言える。

 ああ、私たちの預金もいい加減借金になんかに振り替わって、悪さばっかりしていないで、私の元に帰ってきてもらいたいものだ。元のままとは言わない。ボロボロになって、片足の靴がもげていても、今の状況を改善できるなら受け入れてあげるから。