孤憤

Hafa Adai〜グァムへ行って来ました

 Chapter3のテーマは日本を出てのグローバル展開だから、日本に閉じこもっていても良い原稿は書けない。てなことは全く考えていなくて、全くのリゾート!リゾリゾ・リゾートである。

 ずっと、香港に行った時、せっかくこれからバンバン海外に行くぜ!と5000円高い方の10年パスポートを取得したのに、そのハンコだけで期限切れになりそうなのを悔やんでいた。本当はハワイに行きたいのだが、旅費も日程もかかるので、なかなか難しい。妻は、グァムでもいいんじゃない?と言うが、私は、グァムをそれほど評価しておらず話は進まなかった。

 そんな時、実は、パスポートのハンコの数なら10は超えている旅レンジャーである娘が「グァムを舐めたらあかんで。旅費が安い分、ハワイよりずっと楽しめるというメリットも有るねんで。」と言う。そして、その週末には、ガイドブックを持って来て、数日以内に、やりたいことや、行きたいところを決めておくように言われた。どうやら、彼女も行こうとしていて、同行者を探していたようだ。

 数日後その回答をする頃、私たち夫婦の気分は、すっかり「Hafa Aday(ハファ デイ)」(グァムの言語:チャモロ語で「アロハ」と同じだが、発音が難しい)になっていた。

 

1 オードブル=飛行機。エピソードの無かった旅が無い

 空港の駅に着くと、娘は全く迷わず、トランクの預かりカウンターに向かう。CAですか?と、突っ込みたくなる。しかし、どんなに旅慣れしていても、国際便は、2時間前から手続きすると言うルールは守った方が良いと娘は言う。この日も、予定便の離陸が10分早まったとか、乗り場が突然、空港内列車を使って移動するほど別の所に変わったとか、しっちゃかめっちゃかだった。(遅れることは有っても、早まるってのも有るのか?)

 3時間の飛行だが、機内食が出た。 国際線の機内食は、必ず「CHICKEN(チキン)or ほにゃらら」だ。私は、鶏肉は食べられないのだが、いつも、このチキンじゃない方の発音が聞き取れない。しかし、今日は、字幕なしで洋画を観る娘がついている。

「チキンじゃない方はなんて言うてるん?」

「いや、よくわからんねん。」「サンドウィッチて言うてない?」と妻が言う。

「うん、そうやねんけど、それは、ターキーが入っているって言うねん。ターキーって鳥じゃなかった?」

 クリスマスに七面鳥を食べる習慣は日本では根付かなかった。彼女が聞き慣れていないのは当然だろう。

 小学校の2学期最終日は、クリスマス・イブ。給食で無駄にターキーが出るので、私はせっかくのクリスマス・イブに、毎年居残りだった。ということで、とっても嫌な顔で首を振った。

 「三つ目もあるみたいやけど、NASO FLYって聞こえるねん。なんやろう?」 私のボキャブラリ2500単語を探索しても、全くわからん。

 「さすがに、三つ目も鳥ってことはないやろう。それにしたら?」

 いや、そのNASOというのが、鳥以上に食えたもんじゃなかったらどうすんねん。と思いながらも、まあ、旅行の醍醐味の一つ、恥はかき捨て

 「Please NASO FLY. But What’s NASO?」と言ってみたら、

「Oh、NASO is NASO.Japanese NASO.」食べてみたら、ナスビの天ぷらだった。Eggplantと言え! 

 

 眼下には、果てしなく広がる太平洋が続いていた。

 本当に、上から見ても“ひつじ”のような、小さな雲が、海面スレスレを、群をなしてゆっくり滑っていくように浮かんでいた。上空1万メートルから見ているからそう見えるのだろうが、あれでも高度500メートルはあるのだろう。 何度か、国際線に乗ったが、太平洋を渡るのは初めてだった。

 だだっ広い海面は、穏やかで、ウユニ塩湖のように鏡面効果を現し、羊どものお腹を映していた。絶景とは意外と簡単に見られるものだ。

 

2 スープ=力を入れ過ぎても行けないし抜くことも難しい

 旅行、特に海外旅行に行って、「お土産」問題に時間を取られた経験はある人は多いと思う。こっそり出かけても、何日かは休みを取り同僚には多少負荷をかけるわけで、滅多に行けないところだけに、自分に対するお土産も欲しい。

 しかし、私のように、「マカデミアナッツなら別に要らんから。」と言われてしまうと、それが「お土産のことは考えなくて良い。」という意味であっても、「洒落の効かないやつ」になりたいものであり、余計にハードルを上げてしまう。

 でも、あまり力を入れ過ぎるともらった方も引くし、軽すぎるとマカデミアナッツになってしまう。時折、このお土産問題のために旅のテンションを下げられるのは残念なことだ。

 今回、自分の土産の方は決まっていた。先日失くしたサングラスだ。南の島に行くのだ。サングラスはいくらでも売っているだろうよ。と言う読みだ。

 我々が宿泊したホテル周辺は、グァムきっての繁華街・タモン地区と呼ばれているが、そこに、「T galleria」という、世界でも有数のブランド店が結集しているショッピングモールが有る。

 その建物には、滞在中何度も行ったが、2回目に行った時、とんでも無い景色を見た。

 他のショップで言うと4つから5つ分のスペース、乙事主やモロが、すっぽり入るくらいのスペースに、数千本もサングラスが並べられていた。T galleriaに集結したブランド店が、競い合って展示しているものだった。「やってくれるぜ、南の島!」と感激した。

 女性やちょっと世話になっている人に渡すものは行く前に決まっていた。旅レンジャーからの情報では、当地では、日焼けキティという当地限定のアイテムが販売されているとか。「当地限定」となるとテッパンである。

 実際現地でいくつものショッピングセンターを回ったが、どこも日焼けキティとサンリオグッヅが置かれていて、もはや、サンリオが完全にグァムをジャックしていた。おかげで、土産問題に時間を取られることはなかった。

 

3 ポワソン=来て良かったと思わせるものを

 私が一つ不安に思っていたのは、妻が果たしてマリンアクティビティーに興味を持ってくれるかという点だった。子育て中、海に行っても、プールに行っても、水に入ることはなかった。もう30年くらい水着姿を見ていない。

 韓国や香港のように、ショッピングでも十分楽しめる島ではあるが、やっぱり「海」に入らなければ、グァムを選ぶ意味の半分を失うように思っていた。

 ところが、グァムの海は別だったようで、ガイドブックに紹介されているマリンアクテビティーを、前のめりで選んでいた。まあ、ラッシュガードというあまり肌を露出しないスタイルも流行っていることもあって、全然OKなようだ。

 2日目の早朝、娘が手配したオプショナルプランが始動する。

 迎えに来たマイクロバスは、すでに参加者で満席だった。 私たちが最初に選んだのは、月面探査の時の宇宙服のヘルメット部分のようなもの、私たちは終始「金魚鉢」と呼んでいたが、を被って海中を散歩する、「アクアウォーク」というものだ。

 私も娘も、スクーバーの経験は有る。海が荒れた(シケ)日の翌日にスクーバをすると、魚に会えないといういわゆる「ハズレ」を引くことがあるが、私も娘もその経験があり、高価な上に、沖まで出て、フル装備で「ハズレ」を引くのはうんざりだった。

 しかし、このアクアウォークに関しては、まず初体験だし、自分たちで、勝手に金魚鉢と名付けている時点で、もうハズレ無しなのだ。しかも、ママさんの日頃の行いがよろしいのか、私としては体験したことのないほどの魚群に囲まれた。

 金魚鉢は前面だけがガラスなので、なかなか互いの顔は見えないのだが、海から上がってそれを外した顔を見るだけで、ずっと笑っていたことがわかる。実際、当該アクティビティの主催者のインスタには、後日記念写真が飾られる。私たち3人は、耳まで口角を上げて魚に紛れながら、並んでピースしていた。

 次に選んでいたのは「パラセーリング」だった。これも、3人とも未体験で、このツアー最大の楽しみでもあった。前日から、「明日は空にぶち上げられて、嫌なことも困ったことも全部吹っ飛ばしてやろうぜ!」と意気込んでいた。

 満席だったマイクロバスから乗り換えると、参加者は、半分以下の7人になっていた。人気がないわけではない。他の参加者は、娘と同世代か少しだけ若い目のペアが2組。つまり、親子で参加するのは難しいということだ。

 友達のような、兄弟のような、仲の良い親子。とよく言われてきた。親が二人揃ってガキのような性格だから、子供がまともになったとも言われたなあ。「真実は当事者しか知らないものだ。」などと考えているうちに、バスは、モーターボート専用の小さな港に着いた。

 2組のペアが先に出発して、それと交代に私たちが出航。妻と娘はかっ飛ばすモーターボートは初体験のようで、キャピキャピ言っていたが、当然そんなものは序の口。沖について、パラシュートに固定され、あっという間に空に舞い上がって行った。嬉々として手を振っている。きっといろんなものが吹っ飛んで行くのだろう。それがたまらなく嬉しかった。

 そう、私たちは、周囲からいつも幸せな家族と言われて来たが、家族だから知っている。お互いが、重い荷物を背負いながら、互いに心配をかけないように引きつった笑顔を見せていることを。

 空から降りて来た彼女たちの、ピカピカの笑顔こそが、本当の笑顔。心が揺れた。 さて、私も舞い上がる時が来た。正直、高い所もジェットコースターも平気な私には、バンジージャンプくらいしか感激はもたらせないだろうと考えていたが、なるほど、ゆるいハーネス以外装着せず裸同然で空を飛んでいると、確かに頭の中を解放できるように思えた。

 頭の中で曲が流れる。どの曲というわけではない。自分で作っているのかよくわからないが、この感覚が起きる時、私の脳は強烈に感動している。説明すると長くなる。いずれ人工知能と人間との致命的な違い「天然知能」について、語ろうと思っているのでその時にしよう。

 とにかく、二つのアクティビティーは大当たりで、これだけでもグァムに来た甲斐があったと思わせるものであった。

 

4 ソルベ(口直し)=ベタが結局一番トラディショナル

 3日目。ホテルのプールサイドで半日を過ごす。そのホテルのプールは海にも出られるようになっていたが、グァムの砂浜は、珊瑚礁の粉でできているので、ちょっと日本人向きでは無かった。それに、娘に何がしたいと聞かれた時、以下のイラストを書いて、この写真が撮りたいと言っていたので、それを実現させることにした。

deck chair 

 娘は、多忙で来られなかった息子(弟)に、いろんな写真を送っていたようだが、これの実写版が一番ウケていたらしい。

 3泊4日だった割には、かなりゆとりのある旅行だった。

 飛行機もホテルもアクティビティも、全て娘がセットアップしてくれた。その娘から一つだけ依頼が来た。「市内の交通機関を予習しておいて欲しい。私、これだけは苦手やねん。」と。「パパは、英語が読めないので予習できない。」とトボけて返すと、「一つくらい役割を持った方が楽しめるで。」と嗜まれた。舐められたもんだ。時刻表や地図がアナログだった時代から、国内なら新潟以外の全都道府県を制覇している元旅レンジャーだ。1時間ほどネットで調べて、市内を巡回する「赤バス」と言うサービスについて、このサイトを見れば攻略できるというURLを3つほど送ってやった。

 娘の言うように、グァムというところは、お手軽で面白いところだ。何にも無いと思っていたが、逆にハワイに有ってグァムに無いのは、火山くらいだろう。しかも、全てがコンパクトに収まっていて、移動時間が少ない。と感心しながら、もしかして、私は娘の術中にハマっている?と考えていた。

 大方の旅程が定まってきた頃、遠足のしおりのような、かわいい旅程表が送られてきた。

 ベタな演出だが、これを作るには、現地の交通についての知識が欠かせない。

 

5 ヴィアンド(メインディッシュ)=旅は一食一食が勝負

 旅レンジャーによると、旅の成否は食事にかかってくるという。一食一食が勝負だそうだ。

 そういえば、旅程表では、食事・アクティビティー・食事・買い物・食事・フリー・食事、食事がやけに強調されていてきっちり場所も書いていた。食べてばっかりかよ、と思わせる旅程表の中に、彼女の綿密な計算が仕組まれていたようだ。

 初日は飛行機の都合を考えると予約は難しい。そこで、グァムきっての歓楽街、タモン地区に宿を置き、飲食店を探す戦略を採ったわけだ。娘にとっては、これだけが賭けだったようだが、最終的に、机が広くてわかりやすいという理由で、イタメシ屋に決めた。ところが、この店が大当たりで、非常にサービスが丁寧で、食事もビールも美味しかった。入った時はガラガラだったのに、出る頃には、行列ができていた。娘はほっと胸を撫で下ろしていたようだ。

 2日目は、一番遠いところにあるが、外すことのできないショッピングセンター、の近くのステーキハウス。あちこちのテーブルで、誕生日か何かのお祝いが始まるような店だった。よほど、格式が高いのだろう。もちろん、ステーキは最高級で、ウェルダムに焼いても全く固くならず、脂身を残すこともなかった。

 極め付けは、3日目の夕食。 「ザ・ビーチ」と、赤バスの停留所名にもなっているくらいの店。 浜辺に佇むログデッキに木版張りの屋根、もうこれは「南国」と言わざるを得ないカクテルバー。 トム・クルーズの「カクテル」を知っている人なら、「おう、あの一度は行ってみたいと思う、ザ・南国のカクテルバーってやつやな?」と言うだろう。

 ちょうど、日が沈んですぐの西の空が豪快にオレンジを放つ中、テラス席に座り、出た!と言いたくなるあの、バレーボールが入りそうなカップにフルーツが刺さったグラスでカクテルを飲む。映え過ぎ。

 ここで初めて、娘が、「旅は、一食一食が勝負やねん。それで、楽しい思い出も体験も、確定するねん。」と熱く語る。逆に言うと、どんなに楽しい1日を過ごしても、夕食の店を誤ると、全てがひっくり返ってしまうと言うことだ。確かに、何度か経験が有る。金言だね。

 最高の旅をコーディネイトしてくれた娘に感謝すると共に、こんな夜を迎えられるまで、変人についてきてくれた妻にも感謝する。

 

6 デザート=また行こうと思わせるもの

 最終日は、未明にホテルを出発し、朝一番の便に乗る。寝たければ、飛行機でも、「はるか」でも寝られる。昼前に帰宅し、洗濯を3回。今回は、明日から仕事なので、お土産を分けて、トランクを空にして、収納場所に戻す。夕飯は、帰路で買った弁当かパン。そこで、初めて草鞋を脱ぎ、旅行モードを切る。後始末が終わるまでが遊び。その習慣は、若い頃から変わらない。

 さっぱりと切り替えた後になって、「また行きたいな。」と言う余韻が訪れるのが心地良い。

「Hello Kitty HARUKA」 by Sanri♡

 海外旅行の始まりは、ハネムーンの時からいつも関空快速「はるか」だったが、今回は嬉しいことに、キティコーデの「Hello Kitty HARUKA」が迎えに来てくれた。サンリオが、共催NG無しというのは有名であり、特急とコラボしたところで珍しいことでは無いが、グァムでブレイク中との情報を得ていたので、とりわけ、今回の旅行の出だしとして最高の演出だった。

 ハローキティは生誕50周年を迎えるとのこと。なんの変哲も無いこのキャラクターが長きに渡り愛され続けたのは、マニアでも数えきれないであろう、コラボ作品の数々に起因すると思われる。

 サンリオの企業理念は、「One World, Connecting Smiles.」(笑顔で世界を一つに)だとか。

 そう言うキティちゃんは、永遠の微笑ならぬ「永遠の無表情」なんですよねえ。しかし、だからこそ、彼女は、誰ともコラボができる。

 無地こそ最強のパーツとする日本文化の一例として挙げても良いだろう。